なぜKing Gnu『飛行艇』は心を揺さぶるのか?熱狂の真相解剖
『飛行艇』が聴く者を物理的に圧倒する最大の要因は、その特異なサウンドデザインにあります。一般的なアリーナロックやフェス向けのキラーチューンは、BPM130〜150前後の疾走感あるビートで観客を煽る手法が主流です。ところが、『飛行艇』のテンポはBPM80〜84前後という、極めて重厚なミドル・ハーフタイムテンポに設定されています。このあえて落とされたビートこそが、巨大なスタジアム空間で音が拡散・反響することを計算し尽くした常田大希の緻密な音響設計の真骨頂です。
ギターのコード譜を紐解くと、レギュラーチューニングではなく6弦を一音下げた「ドロップDチューニング」が採用されており、ベースと完全に同期したヘヴィなリフが楽曲の骨格を成しています。重厚なファズの歪みと、新井和輝が奏でるシンセベースの超低域(サブベース)が重なることで、人間の内臓に直接響くような音圧が設計されています。そこに重なるのが、井口理の圧倒的な美声です。泥臭く獰猛な常田の低音ボーカルと、クラシック声楽の基礎に裏打ちされた井口理の突き抜けるハイトーンが交錯することで、重苦しいグランジ・サウンドの中に一筋の光が差し込むような立体的な音響空間が完成します。