栗城史多はなぜエベレストで散ったのか?指切断と死因の真相に迫る
栗城史多氏の死後、その謎多き生涯と破滅への過程を冷徹な視点で暴き、第18回開高健ノンフィクション賞を受賞したのが、ジャーナリスト・河野啓氏による著書『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』(集英社)です。
河野氏は北海道放送(HBC)のディレクターとして、栗城氏が無名の大学生だった2000年代初頭から密着取材を続けていた人物でした。初期の栗城氏をメディアに乗せてスターダムに押し上げた張本人の一人だからこそ、この本には痛恨の懺悔と徹底的な現場検証が込められています。
同書の中で明らかにされたのは、世間が崇拝した「爽やかな挑戦者」とはかけ離れた、栗城氏の脆く生々しい実像でした。
- テントの中での孤独と恐怖:カメラが回っている間は「感謝」「否定という壁をぶち破る」と満面の笑みで語っていた栗城氏でしたが、カメラが止まると一人テントの中で震え、「本当は山が怖い」「もうやめたい」とスタッフに漏らしていました。
- 登山界の実力者たちとの断絶:基礎的な雪山登攀の訓練を軽視し、著名な登山家からの技術指導やアドバイスを「否定的な意見」として拒絶。耳障りの良い言葉をかけてくれるビジネス関係者や自己啓発セミナー界隈に身を寄せていきました。
- 膨らみ続ける遠征資金と負債:エベレスト遠征には1回あたり数千万円の莫大な資金がかかります。指を切断した後はスポンサー集めが難航し、借金を重ねながら「より過激な挑戦」を発表することでしか資金を繋ぎ止められなくなっていました。
河野氏は作中で、栗城氏を「稀代の詐欺師」として切り捨てるのではなく、「メディアと大衆の欲望が生み出した悲劇のピエロ」として描き出しています。大衆が求めた「わかりやすい挫折と挑戦の物語」に応えようとした結果、本人がその虚像から降りられなくなっていった過程は、読む者に戦慄を与えます。