ファーストレディの権限と公私の境界線|日米比較と知られざる実態
「ファーストレディ(First Lady)」という言葉は、もともとアメリカ合衆国において大統領の配偶者を指す通称として定着した外交プロトコール上の呼称です。英語圏では19世紀半ば、第12代大統領ザカリー・テイラーが元大統領夫人ドリー・マディソンの国葬において彼女を称賛した際に用いた記録などが起源とされています。しかし、政治学や憲法学の観点から見ると、ファーストレディは多くの国で憲法上に規定された公職ではありません。
日米両国の制度を比較した際、最大の違いは法的な制度化の度合いにあります。日本では、2017年3月に閣議決定された政府答弁書において「内閣総理大臣夫人の立場は私人である」と明確に定義されました。国家公務員法上の特別職・一般職のいずれにも該当せず、栄典や法的な行政権限は一切付与されていません。
対するアメリカでは、大統領夫人も合衆国憲法に明文規定はないものの、1978年に制定された「ホワイトハウス職員認可法(White House Personnel Authorization Act of 1978)」によって法的な位置づけが整備されました。大統領夫人が大統領の職務を補佐するための専従スタッフを雇用し、連邦予算から給与を支払うことが法律上認められており、ホワイトハウス東棟(イーストウィング)に正式なオフィスと数十人規模のスタッフ陣を擁しています。
このように、制度として公的機能を認めて透明性を担保する米国と、法的には「私人」と位置づけながら慣例的に外交や儀典を担わせる日本とでは、活動の根拠と説明責任のあり方に構造的な差異が存在します。