3代目水戸黄門・佐野浅夫の真実|「泣き虫」の理由と降板の真相
佐野浅夫版水戸黄門の代名詞となったのが「泣き虫黄門」という愛称です。従来のシリーズでは、クライマックスの印籠掲示といえば、悪人を痛快に一喝して大笑いする爽快な勧善懲悪が定番でした。しかし、佐野浅夫が演じる光圀は違いました。悪人の非道によって引き裂かれた親子の絆、不当な重税に耐えかねて命を落とした百姓の無念を前にすると、格さんの「静まれ!」の声よりも先に、黄門様の目から大粒の涙が零れ落ちていたのです。
当時の制作発表やインタビューにおいて、佐野浅夫は自身の演技プランについて次のように語っています。
「黄門様というのは、副将軍である前に一人の生身の人間です。目の前で理不尽に苦しめられている民百姓がいるのに、平然と高笑いなどできるはずがない。旅先で出会う市井の人々の悲しみに胸を痛め、共に泣いてやることこそが、本当の慈悲ではないかと思うのです」
このアプローチは、単なるお涙頂戴のメロドラマではありませんでした。佐野浅夫自身、十代で召集され、過酷な軍隊生活と敗戦の混乱を生き抜いた世代です。権力に振り回される一般市民の痛みを肌感覚で知っていたからこそ、その涙には一切の嘘がありませんでした。助さん(あおい輝彦)、格さん(伊吹吾朗)が立ち回りを行う背後で、被害者にそっと寄り添い、背中をさすりながら肩を震わせる佐野黄門の姿は、バブル崩壊後の不安に揺れる平成初期の視聴者の心を強烈に揺さぶりました。
放送関係者のデータ分析によると、佐野浅夫が担当した第22部から第28部までの平均世帯視聴率は20%台前半から中盤を常にキープし、月曜夜8時の「ナショナル劇場」枠は盤石の支持を誇り続けました。視聴者からTBSに寄せられた手紙には「おじいちゃんの温かい涙に毎週救われる」「悪い奴を懲らしめるだけでなく、被害者の心を救ってくれる」といった共感の声が溢れ、佐野浅夫の評判は国民的おじいちゃんとして確固たるものになりました。