森からし蓮根の現在と事件の真相|40年の風評を越えた元祖の味
歴史の糸を解きほぐす上で、まず避けて通れないのが1984年(昭和59年)6月に発生した「辛子蓮根ボツリヌス菌食中毒事件」です。熊本県内の業者が製造した製品から毒性の極めて強いボツリヌス菌A型が検出され、全国13都県で36名が発症、11名が尊い命を落とすという、日本の食品衛生史上未曾有の惨事となりました。
ここで極めて重要な歴史的事実を明記しなければなりません。この集団中毒を引き起こした原因企業は、熊本市内にあった「協同組合山崎商店」(株式会社山崎からし蓮根)でした。当時の厚生省および熊本県衛生部の調査によると、同社は急速な全国展開を図る中で蓮根の深層部まで十分に熱が通らないまま真空パック包装を行い、嫌気性菌であるボツリヌス菌の増殖を招いたことが立証されています。
しかし、当時の過熱した全国報道は「熊本名物・からし蓮根で死者」とセンセーショナルに連日報道。その結果、元祖として最も知名度が高かった元祖森からし蓮根をはじめとする無関係の老舗各社に、激しい風評被害が直撃しました。店舗には抗議の電話が鳴り響き、百貨店や土産物店からの返品が相次ぎ、熊本駅や熊本空港の売店からは辛子蓮根そのものが完全に姿を消す事態へと追い込まれました。
自社製品からは一切の菌が検出されなかったにもかかわらず、森家をはじめとする職人たちは出荷自粛と在庫廃棄を余儀なくされました。当時を知る地元関係者は「店頭に立つことすら罪人のように見なされ、伝統そのものが途絶えかけた」と述懐します。まさに、ブランドの知名度ゆえに他社の過失の矛先を一身に浴びてしまった悲劇でした。