美輪明宏と三島由紀夫の真実|黒蜥蜴と薔薇に秘めた魂の共犯関係
1970年11月25日、三島由紀夫は「楯の会」メンバーと共に陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地に乱入し、割腹自決を遂げました(市ヶ谷事件)。この昭和史を揺るがした大事件の直前、三島が美輪明宏に対して取った行動は、今なお人々の胸を打ちます。
決行の数日前、美輪が出演していた舞台の楽屋に、三島から抱えきれないほどの深紅の薔薇の花束が届けられました。これまでにない異様な本数と気迫を帯びた花束を目にした美輪は、胸騒ぎを覚えたと語っています。
さらに最後の電話において、三島は普段と変わらぬ穏やかな口調でありながら、どこか遠くを見据えるような声で語りかけました。美輪が「そんなに美しい薔薇をくださって、どうなさったの?」と尋ねると、三島は次のようなニュアンスの言葉を残したと伝えられています。
「君の美しさに感謝したかったんだ。これまでのすべてのお礼だよ」
事件の一報を聞いた際、美輪明宏は取り乱すことなく、静かに祈りを捧げました。三島が選び取った凄惨な幕引きを肯定することはせずとも、彼が抱えていた孤独と美への狂気を誰よりも理解していた美輪は、作家・三島由紀夫の誇りを汚さぬよう沈黙を守り、後世にその芸術的真価を語り継ぐ道を選んだのです。