脚本家・倉本聰の現在と軌跡|北の国からの制作秘話と珠玉の名言
倉本聰氏のキャリアを語る上で欠かせないのが、1981年から2002年まで連続ドラマおよびスペシャルドラマ全8作にわたって放送された『北の国から』です。しかし、この不朽の名作が誕生した背景には、テレビ界の権力構造との凄まじい軋轢がありました。
1970年代中盤、NHK大河ドラマ『勝海舟』のメイン脚本を担当していた倉本氏は、制作方針をめぐる対立から突如として途中降板を余儀なくされます。業界の理不尽に激しい絶望を抱いた氏は、東京の華やかな表舞台を捨て、知人を頼って北海道・札幌、そして富良野へと移住しました。この「東京からの敗走」こそが、大自然の中で泥臭く生きる人間を描く原動力となったのです。
主人公・黒板五郎役を演じた故・田中邦衛氏とのエピソードは、日本の映像史における奇跡的な出会いとして語り継がれています。倉本氏は、スマートで器用な役者ではなく、「不器用で情けなく、しかし愛おしい人間の哀愁」を表現できる唯一無二の俳優として田中邦衛氏を指名しました。過酷な厳冬のロケ地において、脚本の行間にある心情を完全に体現した田中氏と倉本氏の信頼関係は、単なる作家と演者の枠を越え、生涯にわたる深い絆へと昇華しました。