避難訓練の「おはしもち」とは?最後の「ち」の意味と進化の真相を解説
防災教育の合言葉は、最初から「おはしもち」だったわけではありません。日本の災害史と防災マニュアルの改訂に呼応するように、その文字数は時代とともに増え続けてきました。
昭和40年代から50年代にかけて、東京消防庁をはじめとする各自治体の消防局が掲げた基本は「お・は・し(押さない・走らない・喋らない)」でした。高度経済成長期の過密化した都市環境において、火災発生時のパニック防止と集団脱出を円滑化することが主眼に置かれていたためです。
潮目が大きく変わった契機が、1995年(平成7年)の阪神・淡路大震災です。家屋倒壊と猛烈な市街地火災の中、「一度屋外へ出たにもかかわらず、財布や位牌、ペットを取りに戻って犠牲になった」という事例が多発しました。これを受けて全国の学校安全指導に一斉導入されたのが、「も(戻らない)」を加えた「おはしも」でした。さらに2000年代以降、都市型震災のリスク多様化を受けて「ち(近づかない)」が加わり、現在のスタンダードである「おはしもち」が確立されました。
進化の歩みはそれだけに留まりません。地域性や学校ごとの指導方針によっては、さらに派生したバリエーションが次々と登場しています。各世代・各地域の標語と背景にある教訓を、以下の比較表にまとめました。
一部の地域では「おはしもて」の「て」に対して、「てをあげる(横断時)」「てぶくろをする」「ていがくねんをたすける」など複数の解釈が存在します。しかし過度な文字の追加は、幼児や低学年児童の短期記憶の限界を超えてしまう懸念があるため、文部科学省や消防庁の基本指針としては、リズム感と実効性のバランスが取れた「おはしもち」が最も推奨される形式となっています。