本谷有希子の芥川賞『異類婚姻譚』が暴く夫婦の闇と文学の真価
『異類婚姻譚』が世に放たれたときの衝撃は、読者のみならず選考委員たちの間にも静かな波紋を広げた。長年連れ添った夫婦の顔が互いに似通っていき、やがて夫が別の「何か」へと変容していく不気味な寓話。民話の構造を借りながら、現代社会における家庭の形骸化や他者との境界線の喪失を生々しく描き出した。
選考の現場では、その乾いたユーモアと冷徹な構成力が高く評価された。劇作家として培った台詞のキレと空間把握の鋭さが、小説という舞台装置の上で完璧に昇華されていたからだ。感情に寄りかからず、グロテスクな変容を淡々と観察する視線。それこそが、彼女が純文学最高峰の座を射止めた最大の要因であり、今読み返しても色褪せない真価そのものである。