大正ロマン薫る夢二美術館徹底解剖!東京と岡山の見どころ比較
竹久夢二の画業を語る上で欠かせないのが、いわゆる「夢二式美人」と呼ばれる独特の美人画スタイルです。従来の日本画や浮世絵の型を破り、西洋画の写実やデフォルメ、アール・ヌーヴォーの流麗な曲線を融合させたその筆致は、大正時代の女性たちに熱狂的な支持を受けました。
なかでも夢二の代表作として最高峰の評価を受けるのが、1919(大正8)年に描かれた『黒船屋』です。黒猫を胸に抱き、物憂げな視線を投げかける和装の女性を描いた本作は、夢二が最愛の恋人・笠井彦乃との引き裂かれた愛の苦悩の中で生み出した記念碑的作品とされています。自著や当時の書簡において夢二は「女の美しさはその哀愁にある」と書き遺しており、官能性と死生観、深い孤独感が画布全体に漂っています。
なお、『黒船屋』の現存する代表的な肉筆原画(本画)は、群馬県伊香保の「竹久夢二伊香保記念館」に所蔵されており、作品保全のため毎年秋の限られた期間(例年9月中旬頃)のみ特別公開されるのが通例です。東京・本郷の竹久夢二美術館や岡山の夢二郷土美術館では、版画作品や関連スケッチ、同時代の関連絵画が展示されており、企画展のテーマに応じて多角的な解釈を提示しています。
夢二の表現は絵画にとどまりません。作詞を手がけた名曲『宵待草』の楽譜装幀や、雑誌『少女画報』の口絵、さらには自身が日本橋に開店した「港屋絵草紙店」で販売した日用品デザインなど、現代でいうグラフィックデザイナー・アートディレクターとしての先駆的な仕事を遺しました。このボーダレスな表現意欲こそが、大正ロマンの真髄といえます。