五木ひろし『山河』が魂を揺さぶる理由|小椋佳と挑んだ名曲の真実

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『山河』の歌詞を深く読み解くと、単なる自然へのノスタルジーを歌ったものではないことが明瞭になります。冒頭の「人はみな 山河を手折る」という衝撃的なフレーズから、楽曲は聴き手に重い問いを投げかけます。「手折る」とは、自らの欲望や生きていくための業(ごう)によって、清らかであったはずの自然や他者の心を傷つけ、奪ってしまう人間の原罪を象徴しています。

高度経済成長期からバブル崩壊を経て、がむしゃらに走り続けてきた日本人にとって、山河とは「かつて捨て去ってきた故郷」であり、「傷つけながら切り拓いてきた生活の場」でもありました。歌詞の深層には、以下のような心理的プロセスが緻密に描かれています。

若き日の野心と、その過程で背負った数々の罪悪感。それらを抱えながらも人は生き続け、やがて老境に差し掛かったとき、自らが歩んできた道を受け入れ、許し、母なる大自然へと魂を還していく――。小椋佳が紡いだ言葉は、ユング心理学における「自己実現」や「影(シャドウ)の統合」のプロセスそのものです。五木ひろしの絞り出すような低音から天を衝くハイトーンへのダイナミクスは、自己葛藤を乗り越えて「愛する者のために、自らの命を捧げる」という崇高な境地へと聴き手を誘います。

中村 さくら

中村 さくら

マネー&キャリアエディター

エンタメ・カルチャー業界の深掘り取材を得意とし、現場のリアルな声をお伝えします。