吉岡里帆とNhkの軌跡|朝ドラ秘話と『しずかちゃん』大河の真相
吉岡里帆という名前が日本中の茶の間に刻まれた原点は、2015年度後期のNHK連続テレビ小説『あさが来た』にあります。しかし、最初から順風満帆なレールが敷かれていたわけではありません。京都の大学に通いながら演劇活動に打ち込み、夜行バスで東京と往復してはオーディションに落ち続ける過酷な下積み生活の最中に彼女が挑んだのが、同作のヒロイン(白岡あさ役)オーディションでした。
結果は落選。だが、制作現場の熱量は彼女を見逃しませんでした。当時の番組チーフプロデューサーをはじめとする制作陣の目に留まったのは、抜きん出た集中力と、型にはまらない生のエネルギーでした。「ヒロインには合致しなかったが、どうしてもこの作品のどこかで起用したい」という強い意向から、主人公・あさ(波瑠)の娘である千代(小芝風花)の親友、田村のぶ役として異例の追加起用が決定したのです。
田村のぶは、おかっぱ頭に丸眼鏡をかけ、知的好奇心とユーモラスな愛嬌を併せ持ったキャラクターでした。当時、吉岡里帆本人は裸眼であり、丸眼鏡をかけた姿は本人の容姿の美しさを意図的に抑えたスタイリングでした。ところが、これが功を奏します。主人公に感化され、女性の自立に目覚めていく女学生の純真な熱量をコミカルかつ真摯に演じ切り、放送開始と同時に「あのおかっぱの丸眼鏡の女の子は誰だ」とSNS上で大きな話題を呼ぶこととなりました。
吉岡里帆自身も後のインタビューや特番において、「オーディションに落ち続けて心が折れそうだった時期に、『あさが来た』の現場で監督や共演者から芝居の基礎と誠実に向き合う覚悟を叩き込まれた」と述懐しています。朝ドラという巨大なプラットフォームで、端役でありながら強烈な爪痕を残したことこそが、その後の彼女の快進撃を決定づける揺るぎない土台となったのです。