韓国ノーベル賞の全真相|ハンガン快挙の衝撃と自然科学の壁を追う
文学界での快挙に沸く一方、科学技術関係者が冷静な視線を注ぐのが自然科学系ノーベル賞(物理学・化学・医学生理学)の行方です。韓国は国内総生産(GDP)に占める研究開発(R&D)費の比率が約5%と、世界トップクラスの投資大国として知られています。それにもかかわらず、なぜ自然科学賞に届かないのか。科学社会学および政策分析の視座からは、明確な3つの構造的障壁が浮かび上がります。
第1の要因は、基礎研究への投資の歴史的タイムラグです。ノーベル賞の自然科学分野では、授賞対象となるブレークスルーが達成されてから受賞までに平均20年〜30年の歳月を要するのが通例です。韓国が本格的に国家主導の基礎科学研究に巨額予算を投じ始めたのは1990年代後半以降であり、半導体やディスプレイ、二次電池などの「応用・開発研究」に集中してきた期間が長かったという産業構造の歴史的制約が存在します。
第2の要因は、韓国特有の短期成果主義と「パリパリ(早く早く)文化」です。韓国の研究助成システムは長年、3年〜5年の短サイクルで論文数や特許出願数などの数値目標を達成することを研究者に求めてきました。未知の領域を数十年単位で探究し、失敗を繰り返しながらパラダイムシフトを起こすような「ハイリスク・ハイリターン型」の基礎研究が育ちにくい土壌があったと、多くの大学教授や元助成金審査官が指摘しています。
第3の要因は、過熱する受験競争と医学部偏重による人材流出です。韓国の大学入試において、最優秀層の理系受験生がソウル大学をはじめとする主要大学の医学部・歯学部に極端に集中する現象が固定化しています。物理学や化学、生物学といった純粋基礎科学の学科へ進学する優秀層の裾野が狭まり、大学院での博士課程進学率が伸び悩んでいる点も、学術界における深刻な病理とされています。