犬が舐めてくる本当の理由とは?愛情表現の裏に潜むSosと危険な病気
「愛犬がずっとペロペロ舐めてくるのは、それだけ私を愛してくれている証拠」という解釈は、時に危険な誤認を生み出します。動物行動学において、舐めるという動作は犬の愛情表現とカーミングシグナルという二面性を併せ持ちます。カーミングシグナルとは、ノルウェーの動物学者トゥーリッド・ルーガス氏によって体系化された概念で、自らの興奮を鎮め、同時に相手に対して「落ち着いてほしい」と伝えるボディランゲージを指します。
何かに怯えているとき、あるいは強い葛藤を抱えているとき、犬は自分や相手の体を舐めることで脳内にエンドルフィン(鎮痛・多幸感をもたらす神経伝達物質)を分泌させ、精神的な負荷を自律的に和らげようと試みます。このコーピング(ストレス対処)行動が度を越して常同化すると、単なる癖の枠を超えた病理的なシグナルへと移行します。
特に見落としてはならないのが、周囲に何もない空間に向かって舌を出し入れし続ける犬の空舐めと病気のサインです。海外の獣医学では「フライバイティング(ハエ噛み様行動)」とも関連づけられるこの現象は、消化器系の重度な不快感(胃酸逆流、急性胃炎、膵炎)に伴う悪心や、口腔内の激しい痛み(歯周病、口内炎、歯の破折)が引き金となって生じます。さらに、脳の側頭葉に異常放電が起きるてんかんの部分発作や、認知機能不全症候群(高齢犬の認知症)の初期徴候として現れる症例も獣医師から多数報告されています。
また、人間側ではなく愛犬自身が自分の四肢や脇腹、陰部を執拗に舐め続けて被毛が赤褐色に変色している場合は、犬が体を舐め続ける皮膚疾患の疑いが濃厚です。アトピー性皮膚炎や食物アレルギーによる激しい掻痒感はもちろんのこと、精神的退屈や分離不安が極限に達した結果、自傷的に皮膚を舐め壊してしまう「舐性皮膚炎(アクラル・リック・ダーマタイティス)」に発展すると、細菌の二次感染を引き起こし治療が長期化します。変形性関節症や椎間板ヘルニアなどの慢性疼痛を抱えている部位を、痛みを紛らわせるために舐め続けているケースも少なくありません。
さらに、室内のフローリングや敷物を狂ったように舐める犬が床やカーペットを舐める原因の背景には、胃腸内に異物が停滞している違和感や、消化器全体の蠕動運動異常が関与している事例が約6割を占めるという臨床研究もあります。単なる退屈紛らわしと片付けず、内科的スクリーニングを優先すべき深刻な兆候です。