さつまいも収穫後の水洗いはNg?蜜芋化する追熟と保存の鉄則
掘りたてのさつまいもをその日のうちに焼き芋にして食べ、「思ったより甘くない」「パサパサして水っぽい」と落胆した経験を持つ人は少なくありません。さつまいも収穫後すぐ食べると甘みが足りないのは、調理の腕前の問題ではなく、芋の中で起きる生化学的な変化が完了していないためです。
さつまいもの主成分はデンプンであり、デンプンそのものには強い甘みがありません。このデンプンが甘い麦芽糖(マルトース)へと変換されるには、芋の内部に存在する糖化酵素「β-アミラーゼ」の働きが欠かせません。このプロセスを生化学的に進行させる期間こそが「追熟」です。
農研機構(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)などの研究報告でも裏付けられている通り、収穫されたさつまいもは保管されている間も微弱な呼吸を続けています。貯蔵期間中、芋自身の酵素の作用によって高分子のデンプンが少しずつ分解され、低分子のショ糖やブドウ糖、果糖へと変化していきます。このでんぷん糖化の仕組みが十分に働くことで、収穫直後はBrix(糖度)10度前後だったものが、数週間の保管を経て20度〜30度以上にまで跳ね上がります。
さつまいも追熟期間の目安は、品種や環境によって異なりますが、最低でも2週間、ねっとり系の蜜芋として仕上げるなら1ヶ月から2ヶ月がベストです。
近年人気の「紅はるか」や「安納芋」、「シルクスイート」といった品種において、蜜芋ねっとり仕上げる理由は2つあります。1つは、追熟によってデンプンが十分に糖化し、加熱時に糊化(α化)したデンプンと生成された麦芽糖が水と混ざり合ってペースト状の粘性を生み出すこと。もう1つは、じっくり寝かせる過程で適度に余剰水分が抜け、糖分が凝縮することにあります。
さらに家庭でさつまいも甘くする方法として決定的なのが、加熱温度のコントロールです。β-アミラーゼが最も活性化するのは「65℃〜75℃」の温度帯です。電子レンジで短時間加熱すると、この温度帯を数分で通過してしまうため酵素が働かず、パサパサのまま仕上がってしまいます。追熟を終えた芋をアルミホイルに包み、160℃前後のオーブンで90分近くかけてじっくり加熱する「低温長時間調理」を施すことで、溢れんばかりの蜜を蓄えた絶品焼き芋が完成します。