鬼才・岩松了の現在地と軌跡|名脇役と劇作家の二面性を徹底解剖

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お茶の間の視聴者にとって、岩松了といえばテレビ朝日系ドラマ『時効警察』シリーズで演じた総武署時効管理課の「熊本課長」のイメージが最も強烈かもしれません。主人公の霧山修一朗(オダギリジョー)と交わす噛み合っているようで絶妙に噛み合わない脱力トーク、書類に無意味な判子を押し続ける飄々とした仕草は、深夜ドラマの金字塔となった同作の象徴的な空気感を作り上げました。

しかし、岩松了の演技の真髄はコメディリリーフだけに留まりません。映画やサスペンスドラマで彼が演じる「一見平凡な父親」「役所の冴えない上司」「地方都市の町内会長」といったキャラクターには、観る者の背筋をふと寒くさせる不穏な気配が同居しています。笑顔で世間話をしていながら、その目の奥は一切笑っていない。あるいは、親切そうな言葉をかけながら、相手の痛烈な弱点を無自覚に抉り出している。そうした「日常に潜む底知れぬ狂気」を、特殊なメイクや派手な怒号を使うことなく、呼吸一つ、視線の揺らぎ一つで具現化できる俳優は日本中を探しても彼をおいて他に見当たりません。

劇作家として人間のセリフの「嘘」を何十年も見つめ続けてきた彼だからこそ、俳優としてカメラの前に立った時、台本に書かれた言葉の裏側にある「語られない感情」を完璧に肉体化できるのです。

山下 哲也

山下 哲也

自動車・モビリティライター

デジタルガジェットとスマート家電の検証記事を多数執筆。失敗しないモノ選びを提案します。