ライオンのセシル射殺事件の真相|歯科医の現在と群れが辿った結末

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セシル射殺事件を語る上で、日本や欧米のメディアがほとんど報じなかった不都合な真実があります。それは、国際社会が怒りに震えていたまさにその時、ジンバブエ現地の一般市民はこの騒動に冷ややかな視線を送っていたという事実です。

ジンバブエの大手日刊紙『クロニクル(The Chronicle)』は事件直後、「月曜日の朝まで、ジンバブエ国民のほぼ99.99%がこの動物の存在すら知らなかったと言っても過言ではない」という強烈な社説を掲載しました。さらに、当時のジンバブエ情報相も記者会見で「セシルとは何のライオンだ? 私たちには関心のないことだ」と発言し、欧米の報道陣を当惑させました。

なぜ世界と現地の間にこれほど絶望的な温度差が存在したのでしょうか。その根底には、アフリカ農村部が直面する過酷な現実と、植民地主義的な歴史的遺恨が横たわっています。

ファンゲ国立公園周辺の村々では、肉食獣による家畜の食い害や、畑作業中の住民がライオンに襲撃されて命を落とす被害が日常茶飯事でした。住民にとってライオンとは、愛でるべき「百獣の王」ではなく、自らと家族の生存を脅かす「危険な猛獣」に他なりません。そうした現実を放置したまま、1頭のライオンが死んだことに対して米国の富豪を罵倒し、ジンバブエ人全体を野蛮であるかのように糾弾する白人社会の姿は、現地の人々には傲慢なダブルスタンダードと映ったのです。

そもそも「セシル」という愛称自体、アフリカ南部を武力侵略・植民地化した英国の政治家セシル・ローズに因んで欧米の研究者が名付けたものであり、ジンバブエの伝統や文化とは無縁でした。「白人が勝手に名付け、白人が愛で、白人が金を払って撃ち殺し、白人がSNSで激怒している」――現地住民が覚えた冷徹な白け感は、感情的なネット報道の陰で完全に不可視化されていた決定的な盲点でした。

佐藤 大輔

佐藤 大輔

シニアコンテンツプロデューサー

最新のテクノロジーと生活デザインの融合をテーマに、国内外の最新トピックを発信しています。