林家こぶ平の現在と九代目正蔵襲名の真相|タッチ裏話から落語の評判まで
林家こぶ平のキャリアを語る上で欠かせないもう一つの金字塔が、1985年から放送されたあだち充原作のテレビアニメ『タッチ』における主人公・上杉達也役です。声優専門の俳優ではなく、当時若手落語家・タレントとして売り出し中だった彼が、日本中を熱狂させる青春アニメの主役に抜擢されたことは、アニメ史における最大のサプライズの一つでした。
放送当初は「落語家の起用」に対して懐疑的な視線も少なくありませんでした。しかし、こぶ平が吹き込んだ上杉達也は、プロの声優が醸し出す技巧的な美声とは一線を画す、等身大の高校生男子が抱える照れ、怠惰、そして心の奥底に秘めた情熱と哀愁を見事に表現していました。ヒロイン・浅倉南役の日高のり子氏との絶妙な掛け合いは、演技を超えた生々しいリアリティを生み出し、名セリフ「タッちゃん、南を甲子園に連れてって」に対する達也の不器用な返答の数々は、視聴者の胸を締め付けました。
現場スタッフや共演者の証言によると、アフレコ現場での彼は誰よりも台本を読み込み、音響監督の厳しい要求に対しても落語で培った研ぎ澄まされたリズム感と耳の良さで食らいついていったと伝えられています。天衣無縫に見えて極めて繊細な達也の内面は、名門の重圧を背負いながら道化を演じていた当時のこぶ平自身の境遇とも無意識に共鳴していたと言えます。林家こぶ平声優タッチの仕事は、今なおアニメ業界で「不完全さが生み出した至高の配役」として語り継がれています。