歌舞伎の見栄でなぜ寄り目に?クライマックスで静止する衝撃の理由

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日常会話で頻繁に使われる「見栄(みえ)を張る」「見栄っ張り」という慣用句は、歌舞伎の「見得」が語源となっています。しかし、両者の意味合いと漢字の成り立ちには決定的な違いがあります。

歌舞伎の舞台芸術における本来の表記は「見得」です。これは「観客に見せる」「姿形を良く見せて納得を得る」という意味を持つ動詞「見得(み・う)」の連用形から派生した言葉です。すなわち、自らの存在理由や極限の感情を全身全霊で「観客に提示し、得心させる」能動的な演劇行為を指しています。

これが江戸の後期から明治時代にかけて市井の町人文化へ浸透するにつれ、「人目を引くような外見を作る」「他人の目を意識して自分を良く見せかける」という俗世的なニュアンスを帯びるようになりました。その結果、外観や体裁を意味する漢字「栄」があてられ、「見栄を張る」という言葉へと変容していったのです。

劇場の歴史資料や文献を紐解くと、古典芸能の場では一貫して「見得」と表記されるのが正式ですが、大衆メディアや小説などでは「見栄」と書かれるケースも珍しくありません。形を誇示するという表面的な意味では繋がっているものの、歌舞伎の「見得」が内面的な感情の爆発を凝縮した純粋な身体表現であるのに対し、日常の「見栄」は外聞を繕う虚飾を意味するという点は、文化史的にも非常に興味深い逆転現象です。

阿部 裕樹

阿部 裕樹

エンタメ専門ジャーナリスト

マネー知識やキャリア形成に役立つノウハウを、初心者にも分かりやすく解説するのが得意です。