ノーベル賞有力・北川進の全貌|Mofが変える気体科学と現在
気体分子を捕獲する材料として、人類は長らく活性炭や天然ゼオライトに依存してきました。しかし、これらは孔(あな)の大きさや形状を原子レベルで自由に制御することができず、特定のガスだけを選別して取り出す技術には物理的な限界が存在していました。この壁を打ち破ったのが、多孔性配位高分子(PCP: Porous Coordination Polymer)、国際的にMOF(Metal-Organic Framework: 金属有機構造体)と呼ばれる人工多孔質材料です。
北川進氏が率いた研究チームは、金属イオンという「結び目」と、有機配位子という「柱」を自律的に結合させる「自己組織化」に着目しました。金属と有機物の組み合わせ次第で、ジャングルジムのような立体格子構造の中に、狙った気体分子だけがぴったり収まるナノサイズの空洞を無数に設計できる道を切り拓いたのです。わずかスプーン1杯(約1グラム)の粉末状PCP/MOFの内部表面積は、サッカー場1面分から数面分にも匹敵する驚異的な広さを誇ります。
開発当初、世界の化学界の反応は冷淡極まるものでした。学会発表の場では「有機物と金属を混ぜた結晶など、中の気体を抜けば自重で潰れてしまう」「実用に耐えるはずがない」と厳しい批判にさらされました。当時の特番インタビューや自著・手記で語られた「誰にも信じてもらえなかったが、分子のジャングルジムが呼吸するように気体を吸着する姿が確かに見えていた」という生の告白は、研究者の執念を物語っています。
北川氏は諦めることなく、結晶骨格が壊れない強固な結合条件を突き止め、さらにはガスが出入りする際に構造が柔軟に変形する「第3世代(フレキシブルPCP/MOF)」を発見。気体科学のパラダイムシフトを成し遂げました。この基礎研究から応用へと至る圧倒的な先駆性が、世界中の研究者から「ノーベル化学賞受賞は時間の問題」と評価される最大の根拠となっています。