畑から紡がれる一本の糸:日本伝統の繊維農学と持続可能なテキスタイルの再評価
日本の近代化を語る上で、桑畑と養蚕の歴史を避けて通ることはできない。明治から昭和初期にかけて、日本の輸出産業の主力は生糸(シルク)であった。全国各地の山麓や平野部には一面の桑畑が広がり、農家は桑の葉を摘んで蚕を育てた。
養蚕業の盛衰と桑畑の変容
蚕が吐く繊細な糸は、みずみずしい桑の葉の栄養から作られる。かつて群馬県や長野県をはじめとする地域では、桑畑の景観が日常の風景であった。世界遺産に登録された富岡製糸場も、周辺地域の広大な桑畑が存在したからこそ成り立っていた構造である。
しかし、合成繊維の台頭や海外産シルクの普及により、養蚕農家は激減した。手入れを失った桑畑の多くは休耕地となるか、他の作物へと転作された。現在、国内で流通するシルクのうち国産原料はわずか1%にも満たない。
医療・バイオ分野で脚光を浴びる現代の桑畑
一方で、桑畑とシルクの関係に新しい価値を見出そうとする動きもある。蚕が作り出すタンパク質構造を活用し、医療用人工血管や化粧品原料、高機能バイオ素材として蚕糸を利用する最先端研究が進んでいる。単なる衣料用にとどまらない「新しい農産業」として、桑畑の再生を試みるベンチャー企業や研究機関が増加中だ。