塩化ナトリウムの電気分解を完全解明!気体の違いとイオン交換膜法
教育現場や実験講習において、食塩水の電気分解は教科書通りの結果が一筋縄では出ない実験の筆頭として知られています。都内の進学校で化学科の教鞭を執るベテラン教諭は、生徒たちの観察記録について次のように語ります。
「実験室でU字管に飽和食塩水を入れ、炭素電極を差して直流電圧をかけると、生徒たちは教科書の『水素と塩素が1対1の体積比で発生する』という記述を信じ込んでビュレットを見つめます。しかし、実際に計量すると陰極の水素に対して、陽極の塩素の気泡が明らかに少なく、体積比が1:0.3〜1:0.5程度にしかならない。そこで『実験が失敗した』と慌てる生徒が毎年必ず出ます」
実験手順と現場で見られるリアルな変化
学校教育で行われる標準的な塩化ナトリウム電気分解の実験手順は、以下のステップで進められます。
- 電解液の調整:蒸留水に塩化ナトリウムを溶かし、10〜15%程度の食塩水を作製します。反応を視覚化するため、陰極側にフェノールフタレイン溶液を数滴滴下するか、全体にBTB溶液を加えておきます。
- 装置のセッティング:H型管またはU字管に液を注ぎ、炭素棒(または白金めっきチタン電極)をセットします。ピンチコックを閉じて発生気体を捕集できるようにします。
- 通電と観察:直流電源から6〜10V程度の電圧を印加します。
- 陰極側:勢いよく微細な気泡(水素)が立ち上り、フェノールフタレインが鮮やかな赤紫色に変色します(水酸化物イオン OH⁻ の生成)。BTB溶液の場合は青色になります。
- 陽極側:気泡(塩素)の発生がやや遅れて始まり、液がわずかに黄緑色を帯びてプールの消毒臭が立ち込めます。ヨウ化カリウムデンプン紙を気体に近づけると、塩素の酸化作用によって青紫色に瞬間変色します。
なぜ現場では発生する気体の比率が理論通りにならないのか――。その真相は、「塩素ガスの水に対する溶解度の高さ」にあります。水素(H₂)は水に極めて溶けにくいのに対し、塩素(Cl₂)は常温の水1Lに対して約2〜3Lも溶け込みます。陽極で発生した初期の塩素は、気泡として管上部に溜まる前に溶液中に溶解し、水と反応して塩酸(HCl)および次亜塩素酸(HClO)に変化してしまうのです。溶液が塩素で飽和状態に達して初めて、理論比に近い1:1の気体捕集が可能になります。この「現場のズレ」を考察させることこそが、本質的な理科教育の醍醐味と言えます。