直木賞作家・山口洋子の真実|銀座クラブ姫と五木ひろしヒット曲の裏側
作詞家・山口洋子の名を語る上で欠かせないのが、歌手・五木ひろしとの運命的な出会いです。当時の五木は「松山まさる」「三谷謙」など改名を繰り返しながらもヒットに恵まれず、まさに背水の陣に追い込まれていました。その類まれな歌唱力にいち早く着目した山口は、作曲家の平尾昌晃とともに彼を全面プロデュースします。
1971年にリリースされた『よこはま・たそがれ』は、従来の演歌・歌謡曲の常識を覆す斬新な手法で制作されました。「よこはま たそがれ ホテルの小部屋」「くちづけ 残り香 煙草のけむり」と、助詞を極限まで削ぎ落とし、名詞の連続によって情景を映画のカット割りのように浮かび上がらせる歌詞構成は、音楽業界に大きな衝撃を与えました。
この楽曲のメガヒットを皮切りに、山口・平尾・五木のトリオは『待っている女』『夜空』(1973年日本レコード大賞受賞)、『千曲川』(1975年日本レコード大賞最優秀歌唱賞受賞)など、次々と歴史的名曲を世に放ちます。山口の描く詞世界は、銀座のカウンター越しに目撃してきた「男の未練」や「女の強がり」といった生々しい人間感情が、一切の湿っぽさを排した都会的な叙情へと昇華されたものでした。
五木ひろし以外にも、中条きよし『うそ』、石原裕次郎『ブランデーグラス』、山川豊『函館本線』など、彼女が紡ぎ出した言葉は昭和の日本人の心象風景として深く刻まれています。