江戸時代の枕はなぜ高い?箱枕の驚くべき構造と現代医学が明かした危険性

江戸時代の枕はなぜ高い?箱枕の驚くべき構造と現代医学が明かした危険性とはどんな影響があるのか? 専門的な分析を丁寧に紐解いて紹介します。

江戸時代の枕が12〜18cm以上もの極端な高さを誇っていた最大の理由は、頭を休めることではなく「髪型を死守すること」にありました。文化遺産オンラインに収蔵されている工芸品の箱枕(あづち枕)の記録を見ても、横幅24.5cm、奥行12.0cm、高さ18.0cmという規格が存在し、大人の首の高さに対して明らかに突出したサイズ感であることが確認できます。

当時、日本髪や武士の髷を結い上げるには熟練の「髪結い(かみゆい)」の技術が必要であり、町人にとっても決して安くない出費でした。現代のように毎日気軽に洗髪してブローできる環境はなく、洗髪は月に1〜2回程度が一般的。一度結った髪は油(鬢付け油)で固め、少なくとも数日間から1週間以上は形をキープしなければなりませんでした。

そこで生み出されたのが、江戸時代特有の箱枕の仕組みです。箱枕は木製の箱(台座)の上に、「括り緒(くくりお)」で円柱状の小さなクッション(あづち)を固定した構造をしています。重要なのは、このクッションに頭頂部や後頭部を乗せるのではなく、「首の付け根(頸椎)だけを乗せて頭部を完全に宙に浮かせる」という点です。後頭部が寝具に接触しないため、どんなに寝返りを打ちそうになっても、髷や横に張り出した「鬢(びん)」、「髱(たぼ)」が押し潰されずに済みました。

この日本髪と箱枕による寝方は、慣れない者にとってはまさに苦行そのものでした。寝返りを打てば首が滑り落ちて激痛が走り、朝までほぼ仰向けの直立不動に近い姿勢を強いられます。それでも「髷の乱れは身なりの乱れ、ひいては恥」とされた江戸社会において、人々は首の痛みに耐えながら夜を過ごしていたのです。

高橋 健太

高橋 健太

ライフスタイル編集者

Webメディアでの編集・執筆歴10年。読者の好奇心を刺激するストーリー作りを心がけています。