田中好子の生涯と肉声テープの真実|闘病19年の軌跡と家族の絆を追悼検証
1970年代の日本のポップカルチャーを牽引したトップアイドル、キャンディーズ。伊藤蘭さん(ラン)、藤村美樹さん(ミキ)と共に結成されたトリオの中で、田中好子さんは「スーちゃん」の愛称で親しまれました。愛嬌のあるふくよかな笑顔と豊かな歌唱力、そしてどこか親しみやすい佇まいは、当時の若者から大人まで幅広い層を魅了しました。1973年の歌手デビューから瞬く間にスターダムへと駆け上がり、1975年から1977年まで3年連続で『NHK紅白歌合戦』に出場を果たすなど、一時代を築き上げます。
1978年4月4日、後楽園球場に5万5000人のファンを集めた解散コンサートにおいて、彼女たちが残した「普通の女の子に戻りたい」という言葉は、昭和の芸能史に刻まれる象徴的なフレーズとなりました。その後、一時的な休業期間を経て芸能界へ復帰した田中好子さんが選んだ道は、アイドル時代の名声に頼らない「本格派女優」への挑戦でした。
その才能が世界的な評価へと昇華した決定打が、1989年に公開された今村昌平監督の映画『黒い雨』です。井伏鱒二の同名小説を原作とし、広島への原爆投下による「黒い雨」を浴びて過酷な運命に翻弄されるヒロイン・高丸矢須子役を演じ切った彼女の演技は、批評家や観客に大きな衝撃を与えました。放射能の後遺症に怯え、精神的・肉体的に追い詰められていく女性の苦悩を、生々しいリアリティと圧倒的な気品をもって体現したのです。
本作によって、田中好子さんは第13回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞をはじめ、ブルーリボン賞、毎日映画コンクールなど、国内の権威ある映画賞の主演女優賞を総なめにしました。「元アイドル」という色眼鏡を完全に払拭し、日本映画界になくてはならない実力派女優としての地位を不動のものにした瞬間でした。