横になると息苦しい起座呼吸の正体|心不全の兆候と夜間の対処法
横になると息苦しく、体を起こすと楽になる「起座呼吸」。一体なぜこのような現象が起きるのでしょうか。その背景には、人体の重力変化に伴う血液循環の物理的な変化と、心臓のポンプ機能低下が深く関わっています。
人間が立っている、あるいは座っている状態では、重力によって全身の血液の多くが下半身や腹腔内の静脈に滞留しています。しかし、就寝時に仰向け(平背臥位)になると、下半身に溜まっていた約500〜800mLもの静脈血が急速に心臓(右心系)へと還流します。健康な心臓であれば、戻ってきた血液をスムーズに肺から左心房、左心室を経て全身へ送り出すことができます。
ところが、心筋梗塞や高血圧性心疾患、心臓弁膜症などによって左心不全を発症している場合、左心室が血液を十分に拍出できません。その結果、行き場を失った血液が手前の肺毛細血管に激しくうっ滞し、血管内圧(静水圧)が急上昇します。圧に耐えきれなくなった血漿成分が肺胞や間質へと滲み出ると、いわゆる起座呼吸 肺水腫の状態に陥り、酸素と二酸化炭素のガス交換が著しく阻害されて激しい呼吸困難(心原性呼吸困難)が発生するのです。
一方、体を起こして起座位(きざい)をとると、重力によって血液が再び下半身へ移動し、心臓への静脈還流量が減少します。これにより肺毛細血管圧が下がり、肺うっ血が一時的に軽減されます。さらに、横臥位で内臓に押し上げられていた横隔膜が下がることで胸腔が広がり、肺の換気効率が改善するため「座ると息が楽になる」という現象が生じる仕組みです。