『まほやく』西の国の真相と因縁解明!快楽主義の裏に潜む業と考察

『まほやく』西の国の真相と因縁解明!快楽主義の裏に潜む業と考察にまつわる最新トピックを分かりやすく発信ます。

西の国 過去の真相を語る上で避けて通れないのが、作中屈指の重厚さを誇る2つのペアの関係性です。快楽と美のヴェールを一枚剥ぎ取った瞬間に現れる剥き出しの業(ごう)こそが、西の国のシナリオが「読む劇薬」と呼ばれる根拠に他なりません。

シャイロックとムル|「あなたを殺して、私も死ぬ」という愛憎の究極形

かつてのムル・ハートは、人知を超えた知的好奇心を持ち、他者の感情を顧みない傲慢かつ冷徹な大天才哲学者でした。そんなムルと対等に渡り合い、互いの知性と美意識を認め合う唯一無二の親友として傍らにいたのがシャイロックです。しかしムルは、月に焦がれるあまり〈大いなる厄災〉へと挑み、結果として魂を砕かれ、記憶と人格の大部分を喪失してしまいます。

残されたシャイロックの胸中に残ったのは、知性を失い猫のように無邪気に戯れる「現在のムル」への複雑極まりない情愛と、かつて自分を置いて月に魂を売り渡した「過去のムル」への癒えることのない激怒と寂寥です。作中で語られる「私はいつかあなたを殺してしまうかもしれない」「その時は私も死にましょう」という趣旨のやり取りは、一般的な友情や恋愛といった既存の枠組みを粉砕する、魂レベルの共依存と境界線の融解を克明に示しています。

ラスティカとクロエ|鳥籠からの救済と「花嫁」の不在が孕む歪み

一方、一見すると温かな師弟・家族愛のように映るラスティカとクロエの間にも、痛切な物語が存在します。魔法使いであることが原因で家族から忌み嫌われ、鉄の鳥籠に閉じ込められて人間不信の極限にいた少年クロエを見出し、鍵を開けて外の世界へ連れ出したのがラスティカでした。クロエにとってラスティカは文字通りの「救世主」であり、自己肯定感の源泉泉泉です。

しかし、救った側のラスティカ自身が「失われた花嫁」の妄執に囚われ続けています。出会う女性や鳥、果ては無機物にまで「僕の花嫁ではないですか?」と声をかける彼の奇行は、愛する存在を失った耐え難いトラウマに対し、心が防衛のために現実を書き換えている(解離性障害的な)悲痛な反応であることが次第に明らかになります。救われたクロエが、今度は壊れそうなラスティカの心をそっと支えようとする逆転の構造が、読者の涙腺を激しく刺激するのです。

渡辺 美咲

渡辺 美咲

ガジェット&アプライアンスライター

心身ともに健康で持続可能なライフスタイルをテーマに、最新のウェルネストレンドを発信中。