銀座パウリスタ「森のコーヒー」が選ばれ続ける真実と味わいの謎
時計の針を1910年代へと巻き戻す。日本の本格的な喫茶文化の礎を築いた立役者こそ、ブラジル移民の父として知られる水野龍である。彼がサンパウロ州政府から良質なブラジル産コーヒー豆の無償提供と東洋における専売権を託されたことで、東京・銀座の地に誕生したのが「銀座カフェーパウリスタ」だった。
白亜の洋館に漂う芳醇なアロマは、芥川龍之介や谷崎潤一郎をはじめとする文豪たちを瞬く間に虜にした。「銀ブラ」という言葉の語源が「銀座のカフェーパウリスタでブラジルコーヒーを飲むこと」に由来するという説が今なお親しまれているのも、当時の熱狂を物語る象徴的なエピソードだ。後年にはジョン・レノンとオノ・ヨーコ夫妻が連日足を運び、飾らない止まり木として愛したことでも知られている。文化人たちの思索を刺激し、対話を彩ってきた空間のDNAは、いまも途切れることなくカップの中に息づいている。