スイス安楽死制度の真相とは?費用や条件と日本人が直面する現実
世界中で安楽死や尊厳死の議論が交わされるなか、スイスが特異な存在感を放っている最大の理由は「自国民のみならず、国外に居住する外国人に対しても門戸を開いている点」にあります。その背景には、1942年に制定されたスイス刑法第115条の存在があります。
同条文は「利己的な動機(遺産目当てや個人的な怨恨など)から人を自殺に誘導、または自殺を幇助した者は処刑される」と定めています。裏を返せば、「利己的な動機が存在しない純粋な人道支援であれば、自殺を幇助しても罪には問われない」という法解釈が成立します。この規定は医療従事者に限定された特権ではなく、一般市民にも適用される普遍的な法律として設計されました。この法制度の枠組みを利用し、民間の非営利団体が医療機関と連携して自死幇助の支援活動を行っています。
ここで整理しておくべきなのが、日本国内で混同されがちな「安楽死」と「尊厳死」の明確な定義の違いです。
いわゆる「積極的安楽死(Active Euthanasia)」は、医師自らが患者に致死薬を注射するなどして命を絶つ行為を指します。一方、スイスで行われているのは「医師による自殺幇助(Physician-Assisted Suicide: PAS)」です。医師は処方箋の発行や致死量のバルビツール酸系薬剤(主にペントバルビタールナトリウム)の準備を行いますが、点滴のバルブを開く、あるいは薬を口に運んで飲み干すという「最後の動作」は必ず患者本人が自らの手で行わなければなりません。本人が自力で行えない場合、その場で処置は即座に中止されます。
尊厳死合法化の国一覧を見渡すと、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、カナダ、スペイン、コロンビア、ニュージーランドなど複数の国で積極的安楽死や自死幇助が法制化されています。しかし、これらの国のほとんどは「自国の医療保険加入者」や「国内居住者」に対象を限定しており、外国人旅行者の受け入れを法律で厳格に禁じています。国外からの希望者を受け入れる民間団体が法的に活動できる国は、事実上スイスのみとなっているのが実態です。