渡瀬恒彦の伝説と素顔|最強武勇伝から兄・渡哲也との絆まで
渡瀬恒彦さんが体調の異変を感じ、精密検査によって胆のうがんと診断されたのは2015年秋のことでした。病状は決して軽微なものではなく、過酷な抗がん剤治療と放射線治療が直ちに行われました。しかし、渡瀬さんはファンや関係者に余計な動揺を与えないよう、病気の詳細を公に明かすことなく、治療と並行して撮影現場に通い続けました。
体力の消耗が著しい中でも、2016年の『警視庁捜査一課9係 season11』や『タクシードライバーの推理日誌39』を完走。さらに2017年1月に撮影が行われたテレビ朝日系ドラマスペシャル『そして誰もいなくなった』では、病魔による激しい痛みや息苦しさを抱えながらも、鬼気迫る演技を披露しました。共演者やスタッフの証言によれば、本番の声がかかった瞬間に背筋をピンと伸ばし、圧倒的な眼光でセリフを発する姿は、まさに命を削って役に没入する役者そのものでした。
その後、肺気腫を併発するなど容態が急変し、2017年3月14日、都内の病院で多臓器不全のため72歳で息を引き取りました。最後の瞬間まで「もう一度現場に戻る」という強い意志を持ち続けたその闘病劇は、昭和の名優たちが持つ凄まじい矜持の証明でした。