吉田恭子バイオリンの現在地|名器ストラディバリウスと歩む30年
ステージで彼女が手にするのは、18世紀初頭の黄金期に製作されたアントニオ・ストラディバリウスです。バイオリニストにとってストラディバリウスは単なる道具ではなく、自らの肉体の一部であり、時に奏者に対して強烈な緊張感を強いる存在でもあります。
関係者の証言や専門誌のインタビューによると、彼女の楽器はストラディバリウス特有の「シルバー・トーン」と呼ばれる澄み切った高音域の輝きと、チェロを彷彿とさせる肉厚な中低音の倍音成分を兼ね備えています。この楽器が持つ膨大な情報量の音色を十全にコントロールし、大ホールの最後列まで繊細なピアニッシモを届かせる技術こそ、吉田恭子が長年トッププロとして君臨し続ける所以です。
レコーディング作品においても、彼女の美点は遺憾なく発揮されています。デビュー初期の『ロマンツァ』や名曲集『アヴェ・マリア』は、バイオリンの叙情性を最大限に引き出した名盤としてロングセラーを記録。CDアルバムのライナーノーツには、難曲を難解に聴かせるのではなく、旋律の奥にある作曲家の息遣いをリスナーに届けるという彼女の一貫した美学が反映されています。