イカの足の数は本当に10本?生物学が明かす腕の正体と進化の謎
世界中の海には約450種以上のイカが存在しており、その中には「イカ=10本」という固定観念を揺るがす特異な種が存在します。
全長10メートルを超えるダイオウイカの腕構造
世界最大級の無脊椎動物として知られるダイオウイカ(Architeuthis dux)も、基本構造は「腕8本+触腕2本」の10本腕です。しかしその比率は極端で、体長約10メートルの個体の場合、胴体部分は約2メートル程度に過ぎず、残りの8メートル以上を2本の長大な触腕が占めています。
さらに南極海周辺の深海に生息するダイオウホウズキイカに至っては、触腕掌部の吸盤が進化し、360度回転する鋭利な「回転鉤爪(カルーセル・フック)」へと変形しています。マッコウクジラの体表に残る無数の傷跡は、深海で繰り広げられる死闘の際、この巨大な鉤爪付き触腕によって刻まれたものです。
成長すると「8本腕」になるヤツデイカの謎
一方で、分類上はイカでありながら、成体になると腕が8本しか存在しない種もいます。その代表格が中深層に生息するヤツデイカ(Octopoteuthis deletron)です。
ヤツデイカの幼体期には他のイカと同様に10本の腕(8本腕+2本触腕)が存在します。ところが、成長の過程で2本の触腕が自切(あるいは退化・脱落)し、完全に痕跡器官となって消失します。成体になると名実ともに8本の腕だけで生活し、タコのように腕の間に張られた傘状の膜(傘膜)を使って獲物を包み込む狩りを行います。海洋の遊泳環境や餌資源の変化に適応するため、あえて触腕を捨てる選択をした進化の好例といえます。