フィギュアの一回転半はなぜ半回転多い?アクセルに隠された衝撃の真相
「たかが1回転のステップアップ」と侮る観戦者は少なくない。だが、実際にスケート靴を履いてリンクに立つ選手や指導者に取材すると、返ってくるのは全く正反対の言葉である。
日本スケート連盟のバッジテストやジュニア育成の現場において、「アクセルの壁」と呼ばれる現象が存在する。1回転のトウループやサルコウ、ループ、フリップ、ルッツまでの5種類は順調に習得できても、シングルアクセル(一回転半)の段階で何カ月、時には何年も足踏みするスケーターが後を絶たない。
なぜシングルアクセルはこれほどまでに難しいのか。現場のコーチ陣が口を揃えるのは、「視覚的な恐怖心」と「体の遠心力制御」の二重苦である。
後ろ向きに跳ぶジャンプの場合、選手は視界を遮られた状態で背中側へ体を預けるため、ある意味で「落ちる感覚」を受け入れやすい。ところが前向きに踏み切るアクセルは、目に見えるリンクの壁やフェンスに向かって自ら猛スピードで跳び出さなければならない。人間の生存本能は「前方の障害物に向かって跳躍する」ことを拒絶するため、踏み切る直前に無意識に体が縮こまり、エッジが抜けてしまうのだ。
さらに運動力学的なハードルも高い。左足のアウトエッジに体重を深く乗せてカーブを描きながら、右足(フリーレッグ)を大きく前上方へと振り上げる。このとき、滑走スピードを上方向への跳躍力へと変換しつつ、空中で即座に右足を軸としたタイトな回転軸を作らなければならない。少しでも軸が外側に傾けば、氷上に強打することになる。
元日本代表スケーターの手記や特番インタビューでも、「初めてシングルアクセルを跳べた日の喜びは、その後のダブルやトリプルを跳べた瞬間と同じくらい鮮烈だった」と語られるケースが目立つ。一回転半とは、スケーターが「本物のジャンプの物理」を体得した最初の勲章なのだ。