映画『化け猫あんずちゃん』はなぜ傑作なのか?森山未來の怪演と結末の深層

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本作を唯一無二のアニメーションたらしめている最大の要因が、「長編フルロトスコープ」という極めて手間のかかる制作手法です。ロトスコープとは、実写で撮影した映像素材を一コマずつトレースしてアニメーションに変換する技法ですが、本作のアプローチは従来のものとは一線を画しています。

まず、山下敦弘監督の指揮のもと、伊豆をはじめとする実在のロケーションで、実力派俳優陣による完全な実写映画の撮影が行われました。主演の森山未來は、猛暑の中で特製の着ぐるみ頭部とスーツを身にまとい、37歳の化け猫としての重心の低さ、だらしない歩き方、煙草を吸う指先の手付きに至るまで、圧倒的な身体表現で現場に立ちました。声の芝居もアフレコではなく、この実写ロケ時に同録された生の音声をベースに制作されています。

そして、その実写映像素材を受け取った久野遥子監督率いるアニメーションチームが、実写の生々しさを残しながらも、線画の温かみとデフォルメされたポップさを併せ持つアニメーションへと再構築しました。実写特有の間(ま)や呼吸、役者のアドリブから生まれる気まずい沈黙がそのままアニメの動きとなり、日本のアニメーションが長年培ってきた様式美とはまったく異なる「生のリアリズム」が画面に宿っています。

森山未來という身体表現のトップランナーが演じたからこそ、あんずちゃんは単なる「猫のキャラクター」ではなく、皮膚感覚を持った「実在する生命体」としてスクリーンの向こうで呼吸しているのです。

高橋 健太

高橋 健太

ライフスタイル編集者

Webメディアでの編集・執筆歴10年。読者の好奇心を刺激するストーリー作りを心がけています。