なぜオルフェオンに魅了されるのか?ディプティック最高傑作の真価
この目に見えない空間の記憶を香りの芸術へと昇華させたのが、名調香師オリヴィエ・ペシュー(Olivier Pescheux)だ。彼が構築した香調は、複雑で奥行きのあるウッディ・フローラル。しかしその構成は、一般的なピラミッド型の香階を忘れさせるほど滑らかに肌へ溶け合う。
トップを飾るのは、バーで提供されるジンを思わせるジュニパーベリーの鋭利で清潔感のある刺激。そこに、店内の空気感を描く温かみのあるシダーウッドと、常連客の衣服に染み付いたタバコを想起させるトンカビーンが絶妙な重みを与える。さらに、夜のパリを歩く女性たちが纏っていたかのようなジャスミンの官能的なフローラルが重なり、全体を優美なパウダリーノートで包み込む。
賦香率の高いオードパルファン(Eau de Parfum)でありながら、決して重苦しくならない。アルコールが揮発するにつれて肌本来の温もりと一体化し、清潔感と微かな色気が同居する独自のドライダウンへと着地する。このバランス感覚こそ、オリヴィエ・ペシューが遺した不朽の調香美学だ。