七代目尾上菊五郎の現在|体調と八代目襲名の真相、名門音羽屋の行方
歌舞伎界に大きな衝撃を与えたのが、五代目尾上菊之助による八代目尾上菊五郎の襲名でした。長男である菊之助が八代目を襲名し、その長男である尾上丑之助が六代目尾上菊之助を襲名するという親子二代同時の大名跡継承は、近年稀に見る大慶事として報じられました。
この継承において世間が最も注目したのは、「先代が存命のまま、当代に名跡を譲る」という点です。歌舞伎界における最高位の大名跡は、先代の没後に追贈されるか、あるいは数年のブランクを経て追善興行とともに襲名されるケースが歴史的にも多数を占めてきました。存命中に菊五郎の名を譲るという決断の背景には、一体どのような思惑があったのでしょうか。
会見や関係者の手記から浮かび上がる尾上菊之助の襲名理由は、極めて合理的で家族愛に満ちたものでした。七代目本人が「自分が元気で客席から舞台を見届けられるうちに、息子に大名跡を背負わせ、後見として芸の真髄を叩き込みたい」と強く望んだとされています。大名跡の重圧を一人で背負わせるのではなく、父親が生き証人として横に立ち、風よけとなりながら芸の細部を継承していく――。これは伝統芸能の世界において、旧来の権威主義から脱却し、芸の質を次代へ確実にバトンタッチするための極めて戦略的な選択でした。