感動を仕掛ける名匠・前田哲の演出術!名作の裏側と最新の配信動向
本屋大賞を受賞した傑作小説の映画化というプレッシャーのなか、ワーナー・ブラザース映画が配給を手掛けた『そして、バトンは渡された』は、多くの観客の涙腺を決壊させた。血の繋がらない親の間をリレーのように育った主人公・優子を演じた永野芽郁の瑞々しさと、その奥に潜む切なさは、前田監督の手腕によって一段と研ぎ澄まされたものとなった。
前田演出の真骨頂は、俳優に段取り通りの芝居をさせない点にある。台本に書かれた感情をなぞるのではなく、その場に流れる空気、相手の視線や声のトーンに本能で反応させる。永野芽郁が見せた、泣き笑いのような絶妙な表情の数々は、予定調和を嫌う現場の緊張感と温かさの中から自然発生的に生まれたものだ。
複雑な家族の肖像を描きながらも、決して安易な感傷に逃げない。家族という不確かな絆を信じようとする登場人物たちのひたむきな姿は、単なるお涙頂戴のメロドラマを遥かに超え、普遍的なヒューマンドラマとしての強度を獲得した。