市川亀治郎の軌跡と2026年現在|風林火山から猿之助襲名、光と影
市川亀治郎という名が一般の茶の間へと強烈に刻み込まれた契機は、2007年放送のNHK大河ドラマ『風林火山』における武田晴信(後の武田信玄)役への抜擢でした。テレビドラマ初出演にして大河ドラマの準主役を務めるという異例のキャスティングは、放送開始当初こそ賛否両論を呼びましたが、第1話の登場シーンでその懸念を一瞬にして払拭します。
当時の特番インタビューや手記において、彼は「歌舞伎のデフォルメされた感情表現を、いかに映像のリアリズムに落とし込むかという極限の実験だった」と振り返っています。瞬きを極限まで減らした冷徹な眼光、腹の底から響く独特の台詞回し、感情の昂ぶりとともに見せる不気味な笑みは、従来の恰幅の良い信玄像を完全に覆し、視聴率20%台を記録する原動力となりました。
この成功を足がかりに、ドラマ出演作の幅を一気に拡大。『龍馬伝』における三条実美役の怪演や、後に四代目猿之助として出演した『半沢直樹』での伊佐山部長役など、わずか数分の出演で画面全体の緊張感を支配する「劇薬」のような俳優として、映像界でも唯一無二の評価を確立していきました。